絵が苦手、本物みたいに描けない、絵心がない!それは思い違いですよ。
本物そっくりに描けないから、自分は絵が下手だと思い込んでいる人って多いと思うんです。今回は、そんな「ちょっと絵を描くのが苦手」という人のために。
□「絵がうまい=本物そっくり描ける」ことではない。
□ 気負わず絵を描くヒント、線を引くことに慣れる方法
□ 大人の指導の方法・声掛けの方法
本物そっくりに描かれへんから、絵がへたくそやねん…。
小学生にもなると、絵が上手下手の判断基準ができてきます。でも、その判断基準は「本物や見本にそっくりに描けているかどうか」ですよね。もちろん、本物そっくりに描けるってすごい技術なんですけど、絵の評価のポイントは、本物そっくりかどうかではないんです。
【絵本】描く気持ちをほぐしてくれる絵本
っぽい 作・絵: ピーター・レイノルズ 訳: なかがわ ちひろ 出版社: 主婦の友社 絵本ナビで見る
描いた絵が兄に「ぜんぜん にてない」と笑われてしまい、絵を描くことが嫌になってしまいます。あるきっかけで…。大人にこそ読んでもらいたい本。(読み聞かせ5分)
他人からの心ない一言や比較によって大好きだったことが、途端に苦手になってしまう。もったいないですよね。本来、絵は自由なものです。算数のように答えがひとつに決まっていないもの。子どもは純粋に、自分の気持ちのままに描いたり作ったりします。だからこそ、自分の作ったものを否定されると、自分自身を否定されたような気持になります。
作・絵: ピーター・レイノルズ 訳: 谷川 俊太郎 出版社: あすなろ書房 絵本ナビで見る
お絵かきなんて大嫌い!白い画用紙を前に、全く絵を描けない女の子。先生に「しるしをつけてみて」と言われ苦し紛れに書いた「・(てん)」が、女の子の描く気持ちを変えていきます。(読み聞かせ4分)
なかなかこの先生のような機転は思いつきませんが、描けない子どもに対して、「描きなさい!」ではなく、違うアプローチを考えるのってとても大切なことですよね。
本物そっくりじゃなくても素敵な絵
実際にアートの世界に出てみると、有名な絵描きさんや絵本作家さんは、本物そっくりに描いているから評価されている人ばかりではありません。自分の絵を描けているかどうかです。
例えば、有名な画家のピカソはどうでしょう。ピカソは「キュビズム」という複数の視点から見たものを1枚の絵として表現した技法を発明した人ですが、「変なところに目や口がある。本物そっくりじゃない。意味が分からない。変な絵。」という感想が出てくるでしょう。
また、抽象画と言われる世界では、何を描こうとしているのか作者でないとわからない物、作者でさえわからない物がたくさんあります。偶然できた色彩や模様をただただ楽しむという絵もたくさんあるのです。
絵の世界では、本物そっくり、写真そっくりに描くことが、必ずしも評価される技術ではないことがわかりますね。本来、絵と言うものは、人間の心象心理を描いたり、色や模様を楽しむものなので、必ずしも本物そっくりに描く必要はないのです。
どんどん描いて、描くことに慣れよう!
本物そっくりに描くことが大切ではないという事はわかっていただけたでしょうか。とはいえ、ペンや鉛筆をもって線を引くというのは「絵が苦手」と言う人にとってなかなか難しいものです。
そこで、描くことへの心のブレーキが少し緩む方法をご紹介します。
・鉛筆やペン
・紙
ヒント① 実物や写真を見て描かない。
図画工作の授業にありがちな、モチーフ(果物や花、人物)を目の前に置いて「さぁ、これを描きなさい」という方法は、かなり緊張しますし、絵が苦手な人にとっては難しいものです。絵描きである私でさえ「ちょっと大変だなぁ」と思うシチュエーションです。
例えば、上の写真を見てください。写真や実物では、物の外郭の線、構成する要素ごとの線(クリーム、カップ、スプーン、花びらの重なり)、形のうねりの線(波や折れなど)、影の線、色が分かれる部分の線、たくさんの線が細かく交じり合って見えてきます。絵が苦手な人にとって、この無数な線から選んで絵を描くことは大変困難な事です。苦手さんは、実物を見て描くことよりも、まず線を引くことに慣れることから始めてみましょう。
ヒント② イラストを真似して描く
実物や写真を線にしていくことは大変なので、簡単なイラストを真似して、線を引くことに慣れましょう。真似するイラストは、少女・少年漫画のような細かいモノではなく、線が少ないキャラクターがおススメです。お菓子のパッケージにあるようなキャラクターやゆるキャラ、簡単な絵で描かれる絵本などを用意してみましょう。大好きなキャラクターやヒーローの本でもいいです。マネして描いてみましょう。
模倣したものを自作として発表したり販売したりすることはいけませんが、練習段階での真似は悪いことではなく、とても学びが多いです。実際にアートでもビジネスの世界でも、はじめの第一歩は真似から入るものです。
はじめは上手にいきません。上手に描ける人は、最初から才能があるわけではなく、何度も何度も練習するから上手になるのです。1度くらいの失敗でめげず、失敗したら次の紙に、気軽に何枚でも描いてみましょう。
スポーツだって、音楽だって、憧れの人を真似して、練習して上達するもんね!
ヒント③ 本物がないものを描いてみよう!
見本があると、そっくりじゃないことがやっぱり気になる苦手さんには。
見本・本物がないものを描いてみましょう。本物がないから、上手いも下手もないのです。想像力のまま線を走らせ、ヘンテコなものをいっぱい描いていきます。
指導する大人の方がちょっと大変ですが、わりと子どもは受け入れてくれるようです(笑)。「ヘンテコなもの描こう!」と声掛けするのもいいです。「上手じゃなくていいんだ。ヘンテコでいいんだ。だったら描けるかも」と一気にハードルが下がります。
いつも真面目にやってる子ども達に「ふざけてもいい場所」を提供すると、アイデアが爆発します^^。大人にはふざけて見えますが、そのアイデアは、本当に羨ましいくらい自由で、とても大切な想像力です。ペンを走らせていれば、やっぱり描くことにも慣れていきます。
ヘンテコってなんだ?という大人のために言うと(笑)、まず思いついた形を描いてみます(〇でも□でも△でもなんでもOK)。そこにいつもでは描かないであろう線を2,3本付け加えます。そうしたら、もういつもの絵は描けなくなりますから、あとはヘンテコな線を引けば良いだけ。どこかに目や口を描けば、見たこともないモンスターになります。誰にも怒られませんし、自由です。
ヘンテコモンスターや見たことない生き物を描いてみよう!誰も本物を見たことないから描いたもの、それが本物になるんだよ。
絵を描くことって自由なはず
子どもが初めて絵を描くとき、「ペンを握りしめてグチャグチャとやったら線が描けた!」その不思議な現象が楽しくて、描くことを始めますよね。その時は、子ども自身、上手に描こうとか、自分の絵がうまいとか下手とかなにも考えていません。成長の過程で、誰かからの評価が加わり「自分は上手じゃない」という判断をしてしまいます。
友達や大人の「これって、何を描いてるかわからない」「これは、〇〇を描いたつもりなの?(ちょっと違うよね)」という心無い言葉で傷ついてしまうことがあります。子どもはとても敏感にその言葉を感じ取ります。
本来、絵を描くことは自由なはずです。何を描いているかわからないプロの画家の絵なんていっぱいあります。本物そっくりではないと言うだけで、勝手な評価をして、小さい画家達を傷つけてはいけませんね。
何度も言いますが、実際にアートの世界に出てみると、有名な絵描きさんや絵本作家さんって、本物そっくりに描いているから評価されている人ばかりではありません。自分の絵を描けているかどうかです。
そして、アーティストさんと話してて、よく耳にするのが「こどもの頃のように、思い付いたまま自由に描きたい。」「こどもの絵が羨ましい」です。そんな絵を描ける今だからこそ、その描く感覚を体と心に覚えさせておいてほしいのです。